2025年11月
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再生医療の主役、幹細胞の不思議な力
私たちの体は約37兆個もの細胞からできていますが、そのほとんどは皮膚の細胞、筋肉の細胞というように、自分の役割が決まっています。一度役割が決まると、他の種類の細胞に変わることはありません。しかし、体の中にはごく少数だけ、こうした常識を覆す特殊な能力を持った細胞が存在します。それが「幹細胞」です。幹細胞は、再生医療という新しい医療分野のまさに主役であり、その成功の鍵を握る存在です。幹細胞が持つ不思議な力は、大きく分けて二つあります。一つは、様々な種類の細胞に変化できる能力で、これを「多分化能」と呼びます。例えるなら、どんな役でもこなせる名俳優のようなものです。指令に応じて、神経細胞になったり、心臓の筋肉の細胞になったり、血液の細胞になったりと、変幻自在に姿を変えることができます。もう一つの力は、自分と全く同じ能力を持った細胞をコピーして増える能力で、これを「自己複製能」と言います。これは、分身の術のように自分自身の数を増やせる力です。再生医療では、この二つの力を巧みに利用します。まず、自己複製能を使って幹細胞を体外で大量に増やし、次に多分化能を利用して、治療に必要な特定の細胞(例えば、弱った心臓に必要な心筋細胞)へと変化させます。そして、その細胞を患者さんの体に移植することで、失われた組織や臓器の機能を回復させようというわけです。これは、症状を薬で抑える対症療法とは異なり、病気やケガの原因そのものを細胞レベルで修復する、根本的な治療を目指すアプローチなのです。