2025年12月
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保険で受けられる幹細胞治療、膝軟骨の再生
現在、日本で保険適用が認められている数少ない幹細胞治療の一つに、膝の軟骨を再生させる治療があります。対象となるのは、スポーツ中のケガや事故といった外傷によって膝の軟骨が大きく欠けてしまった「外傷性軟骨欠損症」や、骨の一部が壊死して軟骨が剥がれ落ちてしまう「離断性骨軟骨炎」といった特定の疾患です。加齢によって軟骨がすり減る「変形性膝関節症」は、現在のところこの保険治療の対象外なので注意が必要です。この治療法は「自家培養軟骨移植術」と呼ばれ、患者さん自身の細胞を用いる、まさに幹細胞技術を応用した再生医療です。治療のプロセスは、まず関節鏡という小さなカメラを使った手術で、体重があまりかからない部分から米粒ほどの大きさの軟骨組織を少量採取します。この軟骨組織の中には、軟骨の源となる幹細胞が含まれています。次に、この組織を専門の細胞培養施設に送り、約4週間かけて培養します。細胞はコラーゲンゲルの中で立体的に育てられ、最終的には欠損した部分を埋めるのに十分な大きさの、ゼリー状の新しい軟骨組織(自家培養軟骨)が完成します。そして、再び手術を行い、この培養された軟骨組織を軟骨が欠けている部分に移植します。自分の細胞から作られているため、拒絶反応の心配はありません。このように、厳しい基準をクリアし、特定の疾患に対して有効性と安全性が認められた幹細胞治療は、限定的ではありますが、すでに保険診療として患者さんの元に届けられているのです。