究極の万能細胞iPS細胞の作り方
再生医療の未来を語る上で欠かせないiPS細胞は、どのようにして作られるのでしょうか。そのプロセスは、細胞の運命を巻き戻す、まるでタイムマシンのような技術です。私たちの体は、元をたどればたった一個の受精卵から始まります。受精卵は分裂を繰り返す中で、神経、筋肉、皮膚といった様々な役割を持つ専門の細胞へと変化(分化)していきます。一度、専門職に就いた細胞は、もうオールマイティな新人時代に戻ることはできない、というのがこれまでの常識でした。しかし、京都大学の山中伸弥教授は、この常識を覆す方法を発見しました。彼は、すでに専門職として働いている大人の細胞、例えば皮膚の細胞に、たった数種類(発見当時は4種類)の特殊な遺伝子を導入することで、細胞の記憶をリセットし、受精卵に近い、あらゆる細胞に変化できる万能な状態(初期化)に戻せることを証明したのです。この遺伝子は「山中因子」と呼ばれ、細胞の中の時間の流れを強制的に巻き戻すスイッチの役割を果たします。この魔法のような操作によって生まれたのが、iPS細胞(人工多能性幹細胞)です。iPS細胞の最大の利点は、患者さん自身の細胞から作製できることにあります。例えば、Aさんの血液からiPS細胞を作り、それを使ってAさんの心臓の細胞を作って移植すれば、体はそれを「自分自身のもの」と認識するため、拒絶反応が起きるリスクを劇的に低減できます。これは、臓器移植における大きな課題を克服する可能性を秘めています。この画期的な発明により、再生医療の研究は飛躍的に加速し、これまで治療法がなかった多くの難病に立ち向かうための、強力な武器を手に入れたのです。