知識
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幹細胞治療はなぜ効く?二つの作用
病気やケガで傷ついた場所に幹細胞を移植すると、なぜ組織が修復され、機能が回復するのでしょうか。そのメカニズムは、主に二つの異なる作用によって説明されます。一つ目は、非常にわかりやすい「細胞補充効果」です。これは、移植された幹細胞が、失われてしまった細胞そのものに変化(分化)して、文字通りその場所を埋め合わせるという働きです。例えば、iPS細胞から作った心筋細胞を、心筋梗塞で壊死してしまった心臓の部分に移植すれば、新しい心筋細胞が周りの細胞と一体化して力強く拍動を始め、ポンプ機能を直接的に補ってくれます。同様に、パーキンソン病で失われたドパミン神経細胞を、iPS細胞から作って脳に移植するのも、この細胞補充効果を狙った治療法です。これは、壊れた機械の部品を、新しい部品と交換するようなイメージです。しかし、近年の研究で、もう一つの非常に重要な作用があることがわかってきました。それが「パラクライン効果」と呼ばれるものです。これは、移植された幹細胞が、様々な種類の成長因子やサイトカインといった生理活性物質を分泌し、それが周囲にある自分自身の細胞に働きかけて、組織の修復を促すという間接的な効果です。まるで、優秀な応援団のように、弱っている周囲の細胞を元気づけ、励ますのです。例えば、新しい血管を作るように指令を出したり、過剰な炎症を鎮めたり、細胞が死んでしまうのを防いだりします。現在、整形外科などで膝の治療に用いられている幹細胞治療の多くは、このパラクライン効果が主な作用機序だと考えられています。幹細胞治療の奥深さは、単なる部品交換に留まらない、この巧妙な組織修復の応援作用にあるのです。