医療
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心臓を救う幹細胞シート、重症心不全への挑戦
心臓の分野でも、幹細胞を用いた画期的な再生医療が保険適用となり、重症の患者さんに新たな希望をもたらしています。それは、虚血性心筋症(心筋梗選挙などが原因で心臓の血流が悪くなる病気)によって引き起こされた重症心不全に対する「自己骨格芽細胞シート」を用いた治療です。心臓の筋肉(心筋)は一度ダメージを受けると再生しないため、重症心不全の根本治療は心臓移植しかありませんでした。しかし、ドナー不足が深刻な日本では、移植を受けられる患者さんはごくわずかです。この治療法は、そうした患者さんのための新しい選択肢となります。治療では、まず患者さん自身の太ももの筋肉を少量採取します。筋肉組織の中には、「骨格芽細胞」という筋肉の元となる幹細胞が含まれています。この幹細胞だけを取り出し、専門の施設で約3週間かけて培養し、薄いシート状に加工します。そして、開胸手術によって、この細胞シートを弱った心臓の表面に直接貼り付けます。驚くべきことに、貼り付けられた筋肉の幹細胞は心筋に変化するわけではありません。シートから放出される様々な成長因子が、心臓に新しい血管が作られるのを促したり、心筋細胞が死ぬのを防いだりすることで、心臓自身の修復力を引き出し、ポンプ機能の改善を助けるのです。この治療法は、厳しい臨床試験を経て、重症心不全に対する有効性と安全性が国に認められ、「再生医療等製品」として承認されました。これにより、心臓移植以外の選択肢がなかった患者さんが、保険適用でこの最先端の幹細胞治療を受けられる道が開かれたのです。