幹細胞で変わる、私たちの未来予想図
幹細胞技術がさらに進化し、社会に広く浸透した未来、私たちの暮らしはどのように変わっているのでしょうか。それは、単に新しい治療法が増えるというレベルの変化に留まらないかもしれません。まず、健康の概念が大きく変わるでしょう。成人した記念や、就職したタイミングで、自分の血液や皮膚からiPS細胞を作り、それを公的な「細胞バンク」に預けておくことが当たり前の社会になるかもしれません。これは、自分の体の完璧なバックアップデータを持つようなものです。もし将来、交通事故で大きな怪我をしたり、病気で臓器の機能が損なわれたりしても、バンクから自分の若い頃の細胞を引き出し、必要な体のパーツをオーダーメイドで作り出して移植する。これにより、人々は加齢による体の衰えを克服し、生涯にわたって健康で活動的な生活を送ることが可能になる、いわゆる「健康寿命」が飛躍的に延伸します。また、創薬のプロセスも一変します。現在は、新薬の開発に莫大な時間と費用がかかっていますが、未来では、患者さん一人ひとりのiPS細胞から、その人の病気を体外で精密に再現した「ミニ臓器(オルガノイド)」を作り出します。そして、そのミニ臓器に様々な薬の候補を試すことで、副作用がなく最も効果的な薬を、コンピュータのシミュレーションのように迅速かつ正確に見つけ出す「アバター創薬」が実現します。これは、究極の個別化医療(プレシジョン・メディシン)です。もちろん、こうした未来が訪れるには、技術的な課題だけでなく、倫理的な議論や法整備、経済的な負担をどうするかといった社会的な課題を乗り越える必要があります。しかし、幹細胞という生命の根源に触れる技術は、私たちの生き方や死生観そのものをも変えていく、大きな可能性を秘めているのです。