再生医療、特にiPS細胞のような万能幹細胞を用いた治療は、計り知れない可能性を秘めていますが、その輝かしい光の裏には、慎重に向き合わなければならない影、すなわち安全性に関する課題が存在します。最も懸念されるのが「腫瘍形成」のリスク、つまり移植した細胞が「がん化」する可能性です。iPS細胞は、無限に増え続ける能力を持っていますが、治療に用いる際には、目的の細胞(例えば心筋細胞)に完全に変化(分化)させる必要があります。もし、この分化が不完全で、未分化なiPS細胞が僅かでも混入したまま移植してしまうと、体内で無秩序に増殖し、腫瘍を形成してしまう恐れがあるのです。このリスクを克服するため、研究者たちは血眼になって対策を講じています。例えば、移植前に細胞の品質を厳しくチェックし、未分化細胞を検出して取り除く技術や、万が一腫瘍化しても特定の薬剤で自滅させることができる「自殺遺伝子」をあらかじめ細胞に組み込んでおく技術などが開発されています。また、もう一つの課題が、目的外の細胞への分化です。狙い通りに心筋細胞だけを作るつもりが、軟骨細胞などが混じってしまうと、不整脈の原因になるなど、予期せぬ副作用を引き起こす可能性があります。こうしたリスクを管理し、国民が安心して再生医療を受けられるように、日本では世界に先駆けて「再生医療等安全性確保法」という法律が整備されました。この法律に基づき、再生医療を提供する医療機関は、治療計画の妥当性や安全性について、国の厳しい審査を受けることが義務付けられています。光の部分だけに目を奪われるのではなく、影の部分にも真摯に向き合い、一つひとつの課題を科学的に克服していく地道な努力こそが、真に信頼される医療を築くための礎となるのです。